Report 2023
2023.7.27(THU) - 31(MON)
キャンプレポート 2023
この写真の一人ひとりの表情には、それぞれのストーリーがよく現れている。一緒にキャンプを過ごしたみんなならよくわかるだろう。そして不思議なことに、たとえ一緒にキャンプを過ごしていなくても、この表情の奥にどんなストーリーが広がっているのかが、何となくわかるだろう。
多様性と包摂性って本当にあるんだろうか。僕たちが生きている社会でそれは実現するのだろうか。そんな疑問を持った人々が、世界中から集まった。今回のOne Campはそんな感じだった。“Be the first one”。「君がその一番手になったらいい」とあるディレクターが言った。その言葉はシンプルだ。そうだ。とても簡単なことだ。でもそれが何でこんなにも難しいのか。
ヘルマン・ヘッセは『デミアン』の冒頭に、こう書いた。「私は、自分から欲するところのものを生きようとしたに過ぎない。それがなんでこんなにも難しいのか」。自伝的な小説に記した心の声だった。北京から参加した一人の女の子が、すぐにでも帰りたいと言った。ずっと泣いていた。夜に僕のところにやってきて、何とか帰れないかと言った。「そんなに帰りたいんだったら、みんなにお願いすれば、もしかしたら何とかなるかもしれない。でも僕は、君にここに残って欲しい。キャンプでいろんなことに出会うだろうから、君が好きなこと、嫌なこと、嬉しかったこと、どんな世界が見えたのかを教えて欲しい。だからキャンプにいて欲しい」。日本語は全くわからないはずなのに、彼女の目は僕の目をずっと見て離さなかった。
翌る日から、彼女は元気になった。ケロッとして、みんなと遊んでいた。引率していたディレクターが驚いて僕に聞いた。「あなたは昨日の彼女に何と言ったのか?」。言葉はさして重要じゃないと答えた。僕は彼女が、わざわざ異国から余島にやってきた彼女が、純粋にどんなふうにこの世界を見ているのかを知りたかった。だから残って欲しいと言った。やっぱりそれが嬉しかったんじゃないかと思う。 みんなケラケラ笑っている。きっと僕が何かおかしなことを言っていたのだろう。僕もよく覚えていない。でも鮮烈に脳裏に焼き付いているのは、奥に広がる大きな海と大きな空に囲まれたこの、偉大なる余島の表情だ。その奥には、現前する存在を超えたあらゆる存在が漣のように漂っている。しかし「漂流」はその瞬間をそれ自体として享受する。だからわかるのだ。確かに世界はそうなっている。
One Camp Summer 2023
- 日程
- 2023年7月27日~31日 4泊5日
- 場所
- YMCA余島野外活動センター
- 参加者
- 55名
- 主催
- OneCamp実行委員会
- 運営
- 公益財団法人神戸YMCA
- 協力
- パートナーお一人おひとりの皆さま
Ladies & Gentlemenよしましよ、はんしん自立の家、サントリーホールディングス㈱、余島キャンプOBOG会、社会福祉法人光朔会オリンピア、non-standard world, Inc.、ワイズメンズクラブ西日本区六甲部、社会福祉法人神戸YMCA福祉会、学校法人神戸YMCA学園、株式会社上組、京都YWCA、福岡YMCA
キャンプディレクターより
のらりくらりとすることほど、大事なことはない。真面目な話は意図せずして、深い分断を生む。アメリカの分析哲学者リチャード・ローティはこのことを予言した。あまりにも真面目な議論は、バックラッシュを生む。
でもOne Campは今のままなら心配ない。何人かの賢明なキャンパーが、話題を的確にシンプルにするからだ。ふと呟く「それは困っちゃうね」、「悲しいね」、「楽しいね」、「みんなどうしているかな」。本人の決定は他人に影響する。他人の決定は自分に影響する。 自分と他人が重なった時、感情が働く。「いろいろと難しく考える前に友達であれ」とは、ローティの示した処方箋(「情動教育」)だ。だからOne Campは、よく分かってなくてもいいから一緒に過ごすことが前提となる。
踊りながら海で遊ぶ 彼は余島に来て弾けた。本当に海が大好きだ。飛び込み、泳ぎ、潜り、走り、踊る。海で遊んでいる時の表情は、本当に嬉しそうだ。彼は陸地でも精悍な顔つきになった。多くは喋らないが、いつも最前線にいる。One Campにいるといつも不思議なことがある。人はなんでこんなに優しくなれるのだろうか、ということだ。
人は本当は優しい One Campではそう思うことがよくある。それは逆に僕たちが会社や社会で、人は何でこんなに優しくないんだろうと思うことに、慣れ過ぎてしまっていることを気づかせてくれる。車椅子で往生しているキャンパーがいたら、それでも彼が泳ぎたい、飛び込み台まで行きたいと言ったら、近くにいる人は自然と手を貸す。腫れ物に触るようにはしない。それは相手がどんな人でも一緒だ。社会で人々はさまざまな理由をつける。できない理由を。そうさせるのは<社会>という自意識だ。
One Campは「多様性と包摂性」を兼ね備えた生活空間を、そこにいる全員で演出する試みだ。キャンプだからと馬鹿にしてはいけない。障害者だからあえて体験を用意しているのだろうと思ってはならない。彼らの言葉は真実により近い。One Campはマイノリティのためのキャンプではない。一緒にキャンプを過ごしていたらわかる。なぜならキャンプ(という世界)を動かしているのは彼らだからだ。
Camp Director 阪田晃一